新教育の森:全国学力テスト 高口努氏/近藤彰郎氏

毎日新聞 2007年4月16日
 全国の小学6年生と中学3年生を対象にした「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)が24日実施される。公立では愛知県犬山市教育委員会が、私立は約4割が不参加としているが、全国の約240万人の児童・生徒が一斉にテストに臨む。全国的なテストの実施は約40年ぶり。なぜ今全国一斉のテストを行うのか。不参加の理由は。それぞれの考えを聞いた。【佐藤敬一】

 ◇教育の質が向上、序列化起こらぬ−−文部科学省学力調査室長・高口努氏

 −−今回の全国学力テストの狙いは。

 ◆全国的な義務教育の機会均等と水準保持のため、児童生徒の学力・学習状況を把握・分析し、教育の結果を検証して改善を図る。各教育委員会や学校には、調査結果を施策や指導方法の改善につなげて、教育の質の向上を図ってもらう。

 −−学力を測るのであれば全児童生徒対象ではなく、抽出調査で十分という声もあるが。

 ◆今回の調査は各地域における児童生徒の学力・学習状況がどうなっているかをきめ細かく把握・分析することを目的としている。そのためにはすべての児童生徒を対象にするのが適当であると考えた。

 −−調査の実施が4月で結果の公表が9月では遅いのではないか。

 ◆できるだけ早く結果を返してほしいという現場のニーズもあるので努力していきたい。結果の公表の前に、実施後速やかに指導のポイントを記した資料も配る。今回は全国約240万人の小中学生を対象にした大規模な調査。採点集計には時間がかかることをご了承いただきたい。

 −−市町村ごとや学校ごとの結果の公表はなぜしないのか。

 ◆現段階で市町村ごとや学校ごとの状況を公表するのは影響が大きい。都道府県が実施している学力調査でも市町村単位まで公表しているのは05年度調査で38都府県中8都県にとどまる。序列化や過度な競争につながる恐れがあるので、結果の公表は都道府県ごとまでとし、市町村ごとや学校ごとの公表はしない。

 −−それでも市町村や学校は自らの判断で結果を公表することができることになっており、結果的に序列化につながるのではという懸念が強い。

 ◆各学校には公表する際には、調査の結果だけでなく、学校の取り組み状況や課題に対してどう対処していくかも一緒に説明するよう求めている。いろいろな視点で結果を出すので単純な序列化にはならないのではないか。調査の結果だけを見て一喜一憂するのではなく、きちんと現状を把握して改善につなげていくことが一番大事だ。

 −−公立では愛知県犬山市教委、私立では約4割が不参加だが。

 ◆犬山市教委は独自にいろいろな取り組みをしており、成果をぜひ今回の学力調査で実証していただきたかった。調査は今回だけではないので、私立も含めて今後も参加を呼びかけていきたい。

 ◇目的明確でない、メリットわずか−−東京私立中学高校協会会長・近藤彰郎氏

 −−校長を務める八雲学園中・高校(東京都目黒区)をはじめ私立は約4割が全国学力テストには不参加。それはなぜか。

 ◆学力テストをやること自体に反対しているわけではない。ただ、あえてテストを受けるメリットがゼロではないにしてもほとんどない。それだったらもっと違うことを1日かけて生徒たちにやらせてあげたほうがいいと考えた。私立は各学校で判断してくださいということだったのでそれぞれが判断した。4月は新年度に入ったばかりで行事と学校生活が目白押し。そんな中で1日かけてテストをやっても結果がもらえるのは9月。進路を決めなくてはいけない中学3年生が、半年後に結果をもらってもその後の指導に生かせない。

 −−結果が出てくるのが遅いと。

 ◆私立の場合、ほとんどの学校では学内テストも外部の業者テストも年何回もやっていて、受けた生徒が足りないのはこういうところだというのは常に分かっている。結果だけならば1週間ぐらいで出るはず。そのテストを受けた子どもたちに素早いフォローがされないテストに何の意味があるのか。また、対象がなぜ国語と数学の2科目だけなのかも分からない。

 −−文科省は序列化につながらないよう市町村ごとや学校ごとの結果は公表しないとしている。

 ◆逆だと思う。やるのだったら出すべきだ。60億円の国費をかけてやるのだったら、あなたは全体の中でどこにいるんですよというのを教えてあげていいと思う。競争がいけないという人もいるが、それをきちんと認識してうまく子どもたちを向上させてあげればいい。国として学力を測りたいというのが目的であれば、統計学的にはすべてを対象にするのではなく、抽出したものを何年かごとに繰り返して分析していくのが普通では。

 −−今年は不参加だが参加に転じる可能性も。

 ◆それはある。テストの目的がはっきりして意味があるなと判断すれば参加する。今回は私立にとっては目的もはっきりしないし、結果も生かせない。文科省は何のためにこの全国学力テストをやるのかというのをもっと我々現場に投げかけてほしい。

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 ◇学者から批判次々−−都内でシンポ

 シンポジウム「このままでいいのか全国学力テスト」が3月31日、東京都内で開かれた。シンポジウムは教育学者らが呼び掛け人となり、学校関係者ら約180人が参加した。

 公立で唯一不参加を決めた愛知県犬山市教委の教育委員である中嶋哲彦・名古屋大学大学院教授(教育学)は「果たして学力テストで学力が上がるのか疑問。犬山の子は犬山で育てる。全国学力テストは自分たちの教育をつくっていこうという地方自治体の営みを全部押し流してしまうものだ」と批判した。藤田英典・国際基督教大学大学院教授(教育社会学)も「今教育現場では早期選別、振り分けがどんどん進んでいる。全国学力テストは義務教育の序列化につながる。サンプル調査(抽出調査)にすべきだ」と意見を述べた。

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 ■ことば

 ◇全国学力・学習状況調査

 全国の国公私立の小学6年生と中学3年生の全児童生徒を対象に文部科学省が行う国語、算数(数学)の試験。「知識」と「活用」に関する2種類の問題が出題されるほか、生活習慣や学習環境などを尋ねる調査もある。予算は約60億円。以前行われていた同様調査は、学力偏重、過度の競争に陥るなどの批判があり、66年度を最後に廃止された。学力低下の指摘があることなどを背景に、今回は約40年ぶりに実施される。文科省は平均点の公表は都道府県単位にとどめるとしているが、説明責任を果たすために市町村や学校が自らの判断で公表することはできる。調査の発送、採点、集計などは小学校はベネッセコーポレーション、中学校はNTTデータに委託する。



posted by マリンちゃん at 09:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 全国学力テスト
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